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グレープフルーツは、18世紀中頃、西インド諸島でみかん科ザボン類の突然変異として発生した果物で、果実がぶどうの様に房状に実るのでグレープフルーツと名付けられた。 日本には1930年代(昭和初期)に初上陸し、高級フルーツとしてもてはやされ、砂糖やブランデーをかけて食べるのが主流であった。 その後、1997年にアメリカでグレープフルーツの研究発表が行われ、グレープフルーツに含まれる苦み成分の一種であるリモニンがガン抑制に効果があるとされた。そして、他の柑橘果物と比べてもリモニンの含有量はグレープフルーツが最も多いとされたことから、消費量が爆発的に増えたのだった。 日本では『みかん』の消費量が多く、グレープフルーツはお世辞にもメジャーな果物とはいえないが、久条駿祐はフルーツの中で一番好きだった。ほのかな苦味と酸味と甘みが絶妙なコントラストを奏でている果物は他にないというのが、久条の口癖であり、機会さえあれば、グレープフルーツの美味しさを紹介しているほどだ。 今日も社員の佐藤健太と大久保麗華、そして秘書兼経理の藤崎真由美を伴って、久条の友人・原千尋の家でのホームパーティにグレープフルーツを持参し、その美味しさを力説していた。 「ほんと、好きっすね」 健太があきれた目を台所に立つ久条に向けた。 久条は、4人が包丁でグレープフルーツを割り、スプーンで食べようとした行為を諌め、率先して台所に立ち、丁寧に手作業で皮を剥いているのだ。 これも久条のこだわりなのだが、手で丁寧に剥いた方が甘みが強いのだという。しかし、この作業は結構大変で、慣れている久条でも1つを綺麗に剥き終わるのに30分を要してしまう。 そんな久条を尻目に、小さなちゃぶ台を囲んで、4人は取りとめも無い会話を楽しんでいた。 原千尋の住まいは、西武池袋線の江古田駅にほど近い場所にある女性専用の賃貸アパートだった。一人暮らし用なので部屋の間取りも6畳ほどのワンルームだ。この手の間取りだと、4人の会話は台所でグレープフルーツと格闘している久条の耳にも入ってくる。 「はじめてチヒのお部屋に招待してもらったけど、ベージュ系でまとまってて綺麗なお部屋ねぇ」 久条達は、原千尋のことを『チヒ』と呼んでいる。本人がそう呼ぶようにお願いしているので、年下の真由美も千尋を『チヒ』と呼んでいた。 「ほんと、俺の部屋とはずいぶんの差っすね」 「あなたの部屋は、車の部品とか落ちてそうね」 車マニアの健太に麗華が皮肉を言う。 「えーっ? そういう麗華さんは、お酒の瓶がころがってるんじゃないっすか?」 健太が、酒豪の麗華に負けずに皮肉を飛ばす。 健太と麗華は、特に仲が悪いわけではない。いわゆる名コンビなのだ。 「ところで、さっきポストを見たんだけど、2つ下のお部屋には外人さんが入居してるの?」 「ええ、そうみたいね。フィリピン国籍の人みたい」 「真由美さん、よく見てますねぇ」 健太が真由美をおだてて、麗華に皮肉を言い始める前に、真由美が言葉を続けた。 「違うわよ。駿ちゃんが、そうつぶやいているのを聞いたからポストを確認したのよ」 「いつものことだけど、ほんと、変なことに気がつくのね」 千尋が笑いながら視線を久条の背中へ向けた。 「ほんと・・・そういう力を会社経営の方に向けてくれればいいのに」 真由美もつられて久条の方へ視線を投げる。 「ところで、出窓のとこにある棒は、なんすか?」 健太が出窓に写っている2本の棒の影を指差して、千尋に聞いた。 「ああ、こんどアパートの壁を茶色に塗り替えるらしくて、業者さんが足場を組んでたわよ」 「へぇ・・・。」 「外壁なんかどうでもいいから、エレベータをつけて欲しいものだわ」 「そうっすねぇ。でも、それで家賃あがったりするかもですよ」 「え?それは、やだなぁ」 グレープフルーツと格闘を続ける久条の存在を忘れたかのように、会話は盛り上がり続いていった。 |
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